【ハニーサックルハニー】 (B+Y)
「ええー、こんなの蜂蜜じゃない」
蜂蜜のような髪に輪を光らせて、ベルフェゴールは唇を尖らせた。
彼の前には2センチ近くの厚みにふかふかと焼き上がった、日本で言うところのホットケーキが小山になっている。そこにまわしかければいいと、山本が持ってきたプラスチックボトルに入った蜂蜜がお気に召さないとか。角切りのバターが溶け出して、今にも小山のてっぺんから流れ落ちそうだ。
「なんで?蜂蜜だぜ?開け方わかんないとか?」
哺乳瓶にも似た、いかにも庶民じみた蜂蜜の入れ物をはじめて見たのかと思った山本はオレンジのキャップを回して蓋を開けてみせる。ボトルの胴を押すと細い口からあふれた蜜が表面張力と粘度で盛り上がる。琥珀みたいにきらりと光った。
「はァ? んなわけないし、馬鹿にしてんの?」
「そんなこと言われてもなあ…」
困り果てた山本がボトルの裏を見る。近所のスーパーで購入してきたと思われるそれには、品名の欄に「蜂蜜」、原材料の欄に「蜂蜜(アカシア、レンゲ、クローバー)」と書かれている。何を疑えば良いのかさっぱりわからない。
「んー。こまったのな」
最後には指に出して舐めてみた。甘みも、鼻に抜ける香りも、若干の粘り気も、舌の上で消えるさまも、蜂蜜以外のなんだと思えばいいのか。ああ、バターが流れて消えてしまった。山本は顔にお手上げだと書いてしまう。
それを見ていたベルフェゴールが溜息を落とした。
「あーもう。しかたねーからそれ使ってやるよ。ほら、よこせよ」
ようやく差し出された手にボトルを渡すと、それをまっ逆さまにひっくり返した。使い切る気かと思う加減でボトルの胴を絞る。
「こんなんさー、こーんなゆるゆるじゃ、べったべたになるだけで面白くないし、」
あんかけ料理かというほど、ホットケーキをどばどばと蜂蜜まみれにしながら言う。
「ぐっちゃぐちゃの、ぬっるぬるのー、てかてかで……、
あーー…。おいしそうかも…?」
浸かるほど蜂蜜にまみれたホットケーキを見下ろして、小首をかしげる。さらさらと金の前髪が流れて、王冠が傾いた。ナイフは使わず、フォークひとつで思い切り刺され、持ち上げられたホットケーキを、一口で半分たべてしまう。残った半分が、丁度歯を剥いて笑う彼の口に似ている。もぐもぐもぐとわざとらしいほどの咀嚼のあと、すべて呑んで口の中を空っぽにした金色の王子様が言った。
「ねぇ、これお土産にもう一個ちょうだい」
のちに聞いた話だが、イタリアの蜂蜜は白く結晶化しやすく、ガラス瓶に入ったそれは、蓋をせずまっさかさまにひっくり返しても落ちてくることはほとんどないのだという。
電話口で聞くにしたら、受話音量を最小にしても煩い声が、聞いていないことまで説明してくれた。赤い花や柑橘類の花から良く摂れるらしいそれらは、「べたべたもするけど、とにかくざりざりする」。らしい。
わざわざスーパーへ買いに行った新品の蜂蜜は、美味しく召し上がって頂けただろうか。
―――――【ハニーサックルハニー】2010.07.05
これいちおうざんすく(え
蜂蜜のような髪に輪を光らせて、ベルフェゴールは唇を尖らせた。
彼の前には2センチ近くの厚みにふかふかと焼き上がった、日本で言うところのホットケーキが小山になっている。そこにまわしかければいいと、山本が持ってきたプラスチックボトルに入った蜂蜜がお気に召さないとか。角切りのバターが溶け出して、今にも小山のてっぺんから流れ落ちそうだ。
「なんで?蜂蜜だぜ?開け方わかんないとか?」
哺乳瓶にも似た、いかにも庶民じみた蜂蜜の入れ物をはじめて見たのかと思った山本はオレンジのキャップを回して蓋を開けてみせる。ボトルの胴を押すと細い口からあふれた蜜が表面張力と粘度で盛り上がる。琥珀みたいにきらりと光った。
「はァ? んなわけないし、馬鹿にしてんの?」
「そんなこと言われてもなあ…」
困り果てた山本がボトルの裏を見る。近所のスーパーで購入してきたと思われるそれには、品名の欄に「蜂蜜」、原材料の欄に「蜂蜜(アカシア、レンゲ、クローバー)」と書かれている。何を疑えば良いのかさっぱりわからない。
「んー。こまったのな」
最後には指に出して舐めてみた。甘みも、鼻に抜ける香りも、若干の粘り気も、舌の上で消えるさまも、蜂蜜以外のなんだと思えばいいのか。ああ、バターが流れて消えてしまった。山本は顔にお手上げだと書いてしまう。
それを見ていたベルフェゴールが溜息を落とした。
「あーもう。しかたねーからそれ使ってやるよ。ほら、よこせよ」
ようやく差し出された手にボトルを渡すと、それをまっ逆さまにひっくり返した。使い切る気かと思う加減でボトルの胴を絞る。
「こんなんさー、こーんなゆるゆるじゃ、べったべたになるだけで面白くないし、」
あんかけ料理かというほど、ホットケーキをどばどばと蜂蜜まみれにしながら言う。
「ぐっちゃぐちゃの、ぬっるぬるのー、てかてかで……、
あーー…。おいしそうかも…?」
浸かるほど蜂蜜にまみれたホットケーキを見下ろして、小首をかしげる。さらさらと金の前髪が流れて、王冠が傾いた。ナイフは使わず、フォークひとつで思い切り刺され、持ち上げられたホットケーキを、一口で半分たべてしまう。残った半分が、丁度歯を剥いて笑う彼の口に似ている。もぐもぐもぐとわざとらしいほどの咀嚼のあと、すべて呑んで口の中を空っぽにした金色の王子様が言った。
「ねぇ、これお土産にもう一個ちょうだい」
のちに聞いた話だが、イタリアの蜂蜜は白く結晶化しやすく、ガラス瓶に入ったそれは、蓋をせずまっさかさまにひっくり返しても落ちてくることはほとんどないのだという。
電話口で聞くにしたら、受話音量を最小にしても煩い声が、聞いていないことまで説明してくれた。赤い花や柑橘類の花から良く摂れるらしいそれらは、「べたべたもするけど、とにかくざりざりする」。らしい。
わざわざスーパーへ買いに行った新品の蜂蜜は、美味しく召し上がって頂けただろうか。
―――――【ハニーサックルハニー】2010.07.05
これいちおうざんすく(え