(db)

あまいかやさいかおたく。そしてもふもふ。
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【遠吠えなど聞こえない】 (XS?+B+M)

 男とはひどく臆病ないきものだったのだな。と、はらに女を棲まわせたようにスクアーロは思った。

 正確には「思ったらしい」とスクアーロは思う。
そんな経験はないのに、記憶はあるのだから、実に気持ちが悪い。
白塗りの大仰な建物へと視線を上げる。何を否定するつもりか、顔を上げられなかったらしい。厚い銀の前髪が視界を半分遮った。まるで世界に霜が下りたよう。この世の何もかもを背負い込んだみたいな面持ちで佇み、門を潜ることを躊躇した。

―――不意に襲いかかる既概感。

 霜を払うようにかぶりを上げた。見上げた物は違えど、彼は今までに何度も同じような「経験」を記憶してきている。
来たる日の主の野望の為ならばと、彼はどんな汚泥をも呑み、かぶりもした。永遠にも思えた八年は、振り返ればそう長くはなかった。
 人ひとりのキャパシティを超える情報が吐き気を呼ぶ。
砂利を踏み締めると、腱の隙間に剃刀を挟まれているかのように痛んだ。
 額に手をやるスクアーロをマーモンが伺う。即座に手を振り、幻術の強化を却下した。一歩引いて見遣っていたベルフェゴールが、わざとらしく肩を上下させて嘆息のジェスチャーをする。相槌の代わりにマーモンが鼻をすんと鳴らした。スクアーロは睨みつけるように、前しか見ていない。
「記憶」にあるより早急過ぎるボンゴレ十代目の継承式。主の出欠の返答を聞かず、その場へ赴くことをスクアーロは宣言した。鮫に喰い殺されかけれた傷は勿論そう簡単に癒える筈もなく、立っているのもやっとの状態だというのに。
けれど、彼は傷と包帯やギブス、松葉杖などの治療具と補助具だけをマーモンの幻術で隠し、己の足でここに立っている。涼しい顔とは裏腹に、よく見るとほんの僅かばかり震えているのが見てとれる背中は、触れてみれば汗でぐちゃぐちゃなのではないかとベルフェゴールは思う。
金の前髪の下から、銀の横顔を覗く。

まぼろしの「記憶」では、彼は主の背中を見ていた。

 今、主はここにはいない。
 表面上の傷は多くは残っていないものの、未だ内腑の癒えきらぬザンザスへ、畳み掛けるように継承式の開催が報らされた。彼は予定調和のため唇を開くことすら億劫なように見えた。
 無理矢理捩じ込まれた記憶を、スクアーロが真っ先に否定したさまも、ベルフェゴールは同じ角度で見ていた。

 色も失せた銀の表情を覗く。瞳だけは色を失ってはみえない。
既概感を、一歩足を踏み出すことでスクアーロは打ち消す。
ベルフェゴールもそれに倣う。笑い飛ばすように、歯を剥いた。

 男とはひどく臆病ないきものだったんだなとは、彼は思ったことがまだない。願わくば、一度も思わずにいたい。

 術で形作られているだけのルッスーリアとレヴィは、張り付かせた表情を変えなかった。
今彼らがどんな顔をしているか、マーモンにはわからなかったから。



―――――【遠吠えなど聞こえない】2010.07.04
ちゃんと時間かけて書き直したい。

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